不動産の共有名義に要注意!メリット・デメリット、解消方法など解説

不動産は個人もしくは法人が単独で所有するのが一般的ですが、複数の人が共同で所有して登記する「共有名義」という方法もあります。不動産を共有名義にすることにはメリットがある一方、それ以上に気をつけなければならない注意点も多数あるため、あまり推奨できません。
この記事では、共有名義の基礎知識やメリット・デメリットについて詳しく解説します。後半では共有名義の解消方法も紹介するので、今後共有名義での不動産所有を検討している方だけでなく、現に共有持分を所有している方もぜひ参考にしてください。

不動産の共有名義とは?
不動産の「共有名義」とは、複数の人が共同で出資するなどして土地や建物を取得し、それぞれを共有者として登記することです。
とはいえ、土地や建物を人数分で物理的に分割することはできないため、一人ひとりが出資額に応じた「共有持分」を所有し合う形になります。例えば、個人Aと個人Bの2人で5,000万円の物件を取得するとき、Aが3,000万円、Bが2,000万円出資したとすると、Aの共有持分は3/5、Bの共有持分は2/5となります。
不動産は、個人や法人が単独で所有する単独名義が基本です。しかし、一人だけでは物件を購入するだけの資金力がない場合や、物件の相続人が複数いる場合などに、共有名義を用いることがあります。
不動産が共有名義になりうる2つのケース
前述のように不動産は基本的に単独名義です。共有名義になりうるケースとしては、次の3パターンが考えられます。
夫婦共同でマイホームを購入したケース

共有名義になりうる代表的なものとして、ペアローンや連帯債務型の住宅ローンを利用して、夫婦共同でマイホームを購入するケースが挙げられます。夫婦共同なら収入を合算できるため、単独で借り入れるよりも多くの融資を受けることができるのです。
ペアローンとは、夫と妻がそれぞれ住宅ローンを借り入れ、お互いに連帯保証人となるローン契約のこと。夫も妻も住宅ローンの契約者となるため、どちらも団体信用生命保険(団信)に加入できるほか、住宅ローン減税もそれぞれに適用されます。先ほど紹介した5,000万円の物件の例で夫が3,000万円、妻が2,000万円を借り入れる場合、夫の共有持分は3/5、妻の共有持分は2/5となります。
一方、連帯債務型は夫婦のうち一方が契約者となり、もう一方は連帯債務者となるのが特徴です。ペアローンと異なり契約は1本ですが、連帯債務者も住宅ローン減税を受けられます。なお、団信に加入できるかどうかは商品によって異なります。
連帯債務型の場合、夫婦の収入割合に応じて持分割合を決めるのが一般的です。夫の年収が600万円、妻の年収が400万円であれば、夫の持分割合が3/5、妻の持分割合は2/5となります。
相続発生時に遺産分割したケース

もう一つ共有名義の生じる代表的な例が、遺産の土地や建物を複数の相続人で分割して相続するケースです。例えば、法定相続人である2人の子どもで遺産分割する場合、それぞれの共有持分は1/2ずつとなります。
不動産は物理的に分割しづらいため、現物分割や代償分割、換価分割といった方法で相続するのが理想的です。しかし、いずれも難しい場合には、分割相続して共有名義にすることがあります。
不動産の分割相続の方法
現物分割 | 1人の相続人が不動産を単独で相続する方法。大きな土地であれば、複数の土地に分割して、それぞれが単独名義で所有する場合も。 |
代償分割 | 1人の相続人が不動産を単独で相続する代わりに、ほかの相続人に対して、持分の評価額に相当する現金を支払う方法。 |
換価分割 | 相続した不動産を売却し、得られた現金を分割して相続する方法。 |
→相続財産に占める不動産の割合が高い、相続人の資金力がない、不動産の売却が難しいといった場合、共有名義にする必要が生じる。 |
不動産を共有名義にするメリット
不動産を共有名義にすると、主に税金面でのメリットが期待できます。3つのメリットを具体的に見ていきましょう。
住宅ローン減税を別々に受けられる

1つ目のメリットは、夫婦の共有名義の場合、住宅ローン減税が2人分適用されることです。
住宅ローン減税は、返済期間10年以上の住宅ローンを組んで、一定の省エネ性能を有する新築住宅や中古住宅を取得したとき、13年間にわたって所得税の税額控除を受けられる制度です。年末時点でのローン残高の0.7%が控除されるため、大きな節税効果が得られます。
新築の場合、省エネ性能の高さによって控除対象となる借入限度額が決まっているので、住宅ローンの借入額によっては、夫婦それぞれで適用を受けたほうがお得なケースもあるでしょう。
住宅ローン減税の詳細はこちらの記事をご覧ください。
【徹底解説】2024年最新「住宅ローン減税」について|変更点やケース別の条件をわかりやすく解説
売却時にそれぞれが3,000万円特別控除を受けられる

2つ目のメリットが、夫婦の共有名義で所有する自宅を売却する場合、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例(3,000万円特別控除)」を受けられる可能性があることです。
3,000万円特別控除は、一定の要件を満たす自宅売却において、課税の対象となる譲渡所得から最大3,000万円の控除を受けられる制度。夫婦それぞれに制度が適用されれば、自宅の譲渡所得が大きい場合でも、譲渡所得税を少なくできるでしょう。
不動産売却時の譲渡所得税や控除については、こちらの記事で詳しく解説しています。
不動産売却時にかかる税金の種類|譲渡所得の計算方法、控除や特例も解説!
単独名義よりも相続税を節税できる
3つ目のメリットは、単独名義に比べて相続税を小さくできることです。
単独名義で所有している不動産を相続する場合、不動産の評価額全体が相続税の課税対象となります。一方、共有名義で共有者の一人が亡くなったときには、その被相続人が持つ共有持分のみが課税対象となるので、単独名義のときよりも相続税を節税できます。
不動産を共有名義にすることの注意点
不動産の共有名義にはメリットがあると紹介しましたが、それでも共有名義で所有することは推奨できません。なぜなら、メリットを上回るデメリットが存在するからです。
売却や管理などの意思決定が大変になる
共有名義の不動産を売却したり増改築したりする場合、共有者全員の同意を得なければなりません。また、賃貸借やリフォームを行いたいときでも、共有者の過半数の同意を得なければならない決まりです。
共有者が共有名義の不動産に対してできる行為は、大きく「保存」「管理」「変更(軽微なもの/それ以外)」の3つに分けられます。そして、行為の種類ごとに必要な同意の範囲が決められています。
共有者が共有不動産に対してできる行為の種類
行為の種類 | 行為の例 | 必要な同意の範囲 |
保存 | ・設備や内外装の修繕 ・共有不動産の使用 ・不法占拠者への明け渡し請求 | 同意は不要 |
管理 | ・賃貸借契約の締結、解除 ・共有部の内装のリフォーム | 持分価格の過半数 |
軽微な変更 | ・外壁や屋根などの大規模修繕 ・砂利道のアスファルト舗装 ・バリアフリー化 | 持分価格の過半数 |
それ以外の変更 | ・共有不動産の売却、贈与 ・増改築・大規模なリノベーション ・長期賃貸借契約の締結 | 共有者全員 |
なお、上記の内容は2023年4月民法改正後の内容です。
相続が起こると権利関係が複雑になりやすい

共有者が亡くなって相続が発生したとき、その共有者の共有持分が相続されることになります。ここでさらに分割相続が起こると、共有持分が共有名義になるため、権利関係が複雑になってしまいます。ほかの共有者でも同様の事態が起こりうることに加え、代々相続が続くと、ますます共有者の数が増えていくかもしれません。
権利関係が複雑になると、管理行為や変更行為で同意を得るのが難しくなり、売却やリノベーションなどが困難になるリスクがあります。
離婚時にトラブルになりやすい

共有名義が問題になる代表的なケースが、共同でマイホームを購入した夫婦が離婚するパターンです。
離婚にあたっては財産分与を行うのが一般的です。財産分与とは、婚姻期間中に築いた財産を2人で分配する制度のこと。分配の割合は当事者間で協議する決まりになっているものの、1/2ずつ公平に分け合うのが基本とされています。
そもそもペアローンや連帯債務型の住宅ローンは、夫婦がお互いに連帯債務者となるため、離婚後もお互いに連帯債務を負う必要があります。しかし、離婚後の夫婦が2人で自宅に住み続けるとは考えにくく、多くの場合、どちらか一方が住み続けたり売却したりすることになるでしょう。
一方が住み続ける場合、もう一方の連帯債務を解消したいところですが、金融機関は夫婦の合算収入で融資を判断しているため、簡単に解消を認めはしません。売却するにしても、自宅の売却代金で住宅ローンを完済できなければ、問題を解決できません。
共有持分の譲渡によるトラブルが起きやすい
共有名義の場合、物件の売却には共有者全員の同意が必要となりますが、自らの共有持分のみを売却するのであれば、ほかの共有者の同意が不要です。こうして共有者が第三者に共有持分を譲渡したとき、第三者との共有名義になることがあります。
第三者が関係してくると、夫婦や親族のみで共有する場合よりも意思疎通を図りにくく、問題が複雑化する恐れがあるでしょう。
住宅ローンの諸費用や手間が余分にかかる
ペアローンで共有名義にする場合、夫婦それぞれで住宅ローンを契約するため、融資手数料や保証料、抵当権設定登記費用などの諸費用が2本分かかります。審査に向けた必要書類の記入や準備なども2本分行わなければならず、手間も余分にかかるでしょう。
ほかの共有者の使用を止められない
デメリットの1つ目で解説したように、共有不動産の使用は保存行為と見なされ、共有持分の大小に関係なく、ほかの共有者の同意なく自由に行うことができます。よって、ある共有者が物件を使っている場合、ほかの共有者が強制的に追い出すというのは難しいのが実情です。
独占的に使用する共有者に対する賃料請求は認められているものの、支払いに素直に応じてくれるとは限りません。
贈与税が発生するリスクがある

夫婦の共同出資でマイホームを購入したにもかかわらず、どちらか一方の単独名義で登記した場合、贈与税が課税されるリスクがあるため注意が必要です。
例として、5,000万円の物件を購入するのに夫が3,000万円、妻が2,000万円を出資したケースを考えます。夫の単独名義で登記すると、夫から妻へ2,000万円の贈与があったと見なされ、2,000万円に対して贈与税が課される可能性があります。
また、夫の共有持分を4/5、妻の共有持分を1/5として登記した場合も、実際の出資割合(夫:3/5、妻:2/5)との差分に対して、贈与税が発生することがあります。このケースでは1,000万円の贈与があったと見なされるのです。
共同出資でマイホームを購入したときは、出資割合に合わせた持分割合で登記しましょう。
共有名義を解消する方法
すでに共有名義の不動産がある場合、どのようにすれば共有名義を解消できるのでしょうか。有効な5つの方法を紹介します。
共有者全員の同意を得て共同売却する
全共有者で売却の意思統一ができているなら、物件を売却するのがトラブルになりにくく、おすすめの方法です。売却代金を持分割合に応じて分け合えば、共有者間での公平感もあります。
ただし、売却は変更行為にあたるため、あくまでも全員の同意が前提です。持分の大小に関係なく、一人でも反対する共有者がいると売却は難しいでしょう。
ほかの共有者の持分を買い取って単独名義にする
ほかの共有者の持分を買い取って、自らの単独名義にする方法もあります。共有者の同意さえ得られれば、これも比較的トラブルになりにくい方法といえるでしょう。
なお、相場に対して明らかに安価な金額で売買した場合、共有者間での贈与とみなされて贈与税が発生する恐れがあります。相場価格に沿った金額で買い取る必要があるため、まとまった資金を準備しなければならない点は要注意です。
共有物分割請求訴訟で強制的に解消する

ほかの共有者の同意が得られれば問題ありませんが、なかにはどれだけ話し合っても、意見がまとまらないケースもあるでしょう。そのようなときは、共有物分割請求訴訟を起こして、裁判所による判決で強制的に共有名義を解消するやり方もあります。
判決は、分割相続の方法として紹介した「現物分割」「代償分割」「換価分割」のいずれかで決着するのが基本です。
ただし、解決までに数年単位の時間がかかる可能性があることや、共有者同士の関係が悪化する恐れがあることなどは認識しておきましょう。
自分の持分を売却する
先述のとおり、自分の持分のみを売却する場合、ほかの共有者の同意は不要です。同意が得られないなら、持分の売却を検討してもよいでしょう。
とはいえ、一部の共有持分を取得したところで利用価値があまりないため、通常の個人や不動産会社に売却できる可能性は極めて低いのが現実です。多くの場合、訳あり物件を専門で取り扱う買取業者に買い取ってもらうことになるでしょう。
なお、買取業者は不動産としての利用価値を高めるため、ほかの共有者相手に持分を売却するよう営業をかけたり、共有物分割請求訴訟を起こしたりするかもしれません。こうしたことから、共有持分を売却する際は、ほかの共有者へ事前に共有しておくのがおすすめです。
自分の持分を放棄する

共有名義に煩わしさを感じているなら持分放棄も有効です。自分の共有持分を放棄すること自体は、売却と同様にほかの共有者の同意を必要としません。放棄した持分は、持分割合に応じてほかの共有者へ分配されます。
しかし、登記に関しては事情が異なります。持分放棄をする際は「持分移転登記」が必要ですが、この登記は共有者が共同で申請しなければなりません。放棄そのものは単独でできても、効力を発揮させるには、ほかの共有者の協力を得なければならない点は要注意です。
まとめ
不動産の共有名義は出口が明確でないため、基本的には避けるべきです。すでに共有名義の不動産を所有している場合、相続が発生するなど、時間の経過でますます解消が困難になる恐れがあるので、可能な限り早めに行動を起こすとよいでしょう。
対象の物件を利用する人がいない場合、全員合意での共同売却が最も現実的な方法です。ただ、共有者同士の関係が悪いときには、売却の意思決定にどの程度不動産会社が関われるのか相談が必要になります。意見や利害の対立があると、最悪の場合、それぞれが弁護士を立てて法廷で争う事態に発展することもあります。
マイホームの購入を検討している方や将来不動産の分割相続が見込まれる方は、こうした共有名義のリスクをしっかりと把握し、事前に夫婦や親族の間で対応を話し合っておくことをおすすめします。

■監修_サーラ不動産/担当者_資格:宅地建物取引士

WRITER PROFILE

藤田一太郎
宅地建物取引士・再開発プランナー
大手不動産デベロッパーで都心商業施設の運営管理・企画・リーシングなどを経験。再開発コンサルでリーシング・契約業務、都心や地方の再開発企画業務に携わる。現在は、不動産ライターとして活動する一方、日本茶インストラクターとして茶農家メンバーとしても活動中。