健康寿命を延ばそう!フレイルって知ってますか?

健康寿命を延ばそう!フレイルって知ってますか?

最近、「健康寿命」という言葉を耳にするようになりました。

そして「フレイル」という耳慣れない言葉も、健康寿命を話題にしている場面で使われることが増えてきています。
みなさまの中にも健康寿命をというのはイメージできますが、「フレイルってなに?」と思われた方も多いと思います。

今回は、「フレイル」について解説をしていきます。

フレイルって何?

フレイルとは英語で「虚弱」を意味するFrailty(フレイルティ)からきており、平成28年度の厚生労働白書では「加齢とともに、心身の活力(例えば筋力や認知機能等)が低下し、生活機能障害、要介護状態、そして死亡など危険性が高くなった状態。」とされています。

要するに、健康な状態と介護が必要な状態の境目の少し動きにくくなってきた時期ということです。

これは病気やケガにより動けなくなることもありますが、ただ加齢によって引き起こされる場合もあります。

ここで覚えておいてほしいのは、このフレイルという状態の時期なら、ある程度は健康な状態に戻ることができるということです。

フレイルの人口割合

引用:65歳以上の高齢者の20%~25%がフレイル。

https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kaigo_frailty_yobo/shiru/howold.html

フレイルになる時期

引用:85歳ごろにフレイルになるパターンが多い。

https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kaigo_frailty_yobo/shiru/howold.html

フレイルと健康寿命について

健康寿命とは「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことで、2016年の時点では男性が72.14歳、女性が74.79歳です(令和2年版厚生労働白書より)。
現在の社会では、男女とも平均寿命より健康寿命が10年ほど短くなっています。

平均寿命と健康寿命との差は、健康の問題で日常生活に制限ができる期間ということになります。

従って、この10年間は日常生活が不便な状態、言い換えれば介護が必要な状態になります。

介護が必要な状態とは、自分の身の回りのことができない、外出などの移動が1人でできないということ。

介護状態の原因には、大きく以下の2つのことが考えられます。
①運動能力が低下する(運動機能)
②状況判断や意思決定ができなくなる(認知機能)

介護が必要な状態にならず、健康で充実した生活を長く送るためには、健康寿命を延ばすということが重要になります。

フレイルは、健康寿命を失いやすい高齢者であり、いち早くフレイルを察知し、適切な対策を行うと健康寿命を伸ばすことに期待できます。

フレイルの要素

“こんな症状が出たら要注意!お心あたりはありませんか?”

イラスト:加齢と健康

フレイルには以下の5つの要素があります。(日本版CHSより)

  1. 体重減少:特に病気などの原因がなく体重が減る(半年で2キロ以上の低下)
  2. 筋力低下:目安としては握力が男性26㎏未満 女性18㎏未満
  3. 疲労:わけもなく疲れたような感じがする
  4. 歩行速度の低下:普通に歩く速度が毎秒1m未満(10m歩くのに10秒以上かかる)
  5. 身体活動の低下:軽い運動や体操を定期的(週1回程度)に行っていない

上の5項目のうち3項目以上が当てはまればフレイルの状態にあてはまるといわれています。

上記のなかでも、今回は介護状態になる原因の1つ“運動機能” にまつわる体重減少、筋力低下、歩行速度について簡単に説明します。

フレイルの“運動機能”と確認方法

体重減少

肥満は生活習慣病として様々な病気の原因として注意喚起されてきましたが、高齢者の健康寿命を考えるうえでフレイル予防として“痩せすぎ”の問題がクローズアップされるようになりました。

肥満ややせの基準としてBMIという数値が使われます。
これは以下の計算でわかります。

BMIの計算式 BMI=体重(㎏)÷身長(m)の2乗
(例)60㎏÷1.65m²(165㎝)=60÷(1.65×1.65)=22.04

フレイルの予防の観点からこのBMIの基準は65歳以上では21.5以上とされています。

上の例では身長165㎝で60㎏ですが、55㎏になるとBMIは20.2となりフレイルの可能性が出てきます。
肥満でも膝などの負担による痛みで運動不足になり「身体活動の低下」のフレイルの項目に該当しますが、痩せすぎに関しても十分注意が必要です。

加齢と筋力

歳を重ねていくと筋力が落ちていくことは誰もが感じることだと思います。

ではどのように力は落ちていくのでしょうか?

一般的に筋力は20代にピークを迎え、その後徐々に低下していきます。
50歳代からは低下の割合が大きくなり、80代ではピークの30~50%低下すると言われています。

筋力でも特に下肢の力は日常生活の中で起きたり歩いたりする基本的な移動能力に直結しています。
高齢者の筋力低下は「サルコペニア」とよばれ、これは筋肉の量の減少による筋力の低下が特徴といわれています。

体力健診では筋力低下は握力計で測定するのが一般的ですが、ご家庭で握力計で測定は難しいと思います。

そこで、簡単に筋力(筋量)の減少がわかる方法として手足の太さを利用することができます。

筋肉の量が少なくなると具体的には手や足が細くなってきます。
わかりやすいところでは、ふくらはぎの筋肉の張りがなくたるんできたような感じになってきます。

目安としては、ふくらはぎの一番太い部分を両手の親指と人差し指で作った輪で囲んだ時に隙間ができると筋量減少の可能性があります。

写真:ふくらはぎ

また脚力を測定する簡易的な方法として自分の体重を使う方法があります。
介護予防教室などの測定でも用いられますが、ご家庭にある普通の高さの椅子(座面が40㎝程度)に座って、片足で立ち上がれるかという検査方法もあります。

写真:片足で立ち上がれるかという検査方法

加齢と歩行速度

普通に歩く速度に関しては高齢者では秒速1.2m程度といわれています。
これに関しては高齢者も若者も大きな差はなく平均は秒速1.3m程度です。

加齢により差が出てくるのは速歩きです。

速歩に関しては若者と高齢者では大きな差が出てきます。
これは年を取ると速く動く能力が低下してくるからです。

フレイルの基準にある秒速1mという速度は、踏切や横断歩道を青信号で渡り切れる速度になっています。
したがって秒速1m以下では、外出時に踏切や横断歩道を渡り切れない可能性が出てきます。

終わりに

今回はフレイルについて運動機能の低下を中心にお話してきました。

若い方も中年の方も将来の健康寿命をできるだけ延ばすため、普段から運動を心がけて準備をしておきましょう。

次回はご家庭で簡単にできる運動機能のトレーニングについてお話したいと思います。

WRITER PROFILE

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八木幸一

豊橋創造大学 保健医療学部 理学療法学科 教授
理学療法士として心疾患や呼吸器疾患の急性期や在宅リハビリテーションなどに従事した後、豊橋創造大学にて理学療法士の養成および大学の地域貢献事業推進、在宅リハビリテーションや災害時の要介護者の避難などの研究・支援などを行っている。

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