赤ちゃんの成長を引き出す「部屋の整え方」|運動発達をサポートする簡単アイデア
赤ちゃんは生後1年〜1年半ほどでひとり歩きに至りますが、その過程には「ねがえり」「ずりばい」「ハイハイ」「つたい歩き」など多くの運動発達のステップがあります。特別なトレーニングをしなくても発達は進みますが、家庭の部屋環境を少し工夫するだけで、運動発達をよりスムーズに促すことができます。
本コラムでは、赤ちゃんの運動発達のプロセスに合わせて「どんな部屋づくりをすると成長をサポートできるのか」を、月齢別に分かりやすく解説します。

目次
はじめに

赤ちゃんを家に迎えたばかりの頃は、「必要なものは揃っている?」「どんな部屋が安全?」など不安や疑問が尽きません。
もちろん育児グッズを買いそろえることも大切ですが、赤ちゃんの運動発達にとっては、今ある部屋を“どう使うか”がとても重要です。
赤ちゃんは周囲の環境から多くを学び、興味を持ち、身体を動かすことで発達が進みます。本コラムでは、赤ちゃんが生まれてからひとり歩きをするまでの運動発達の流れと、それに合わせた具体的な部屋の工夫を紹介します。
赤ちゃんの運動発達と、部屋の工夫ポイント
ねがえり(生後5〜6か月):最初の“移動”を促す環境づくり

赤ちゃんの移動運動というと何を思い浮かべるでしょうか。ずりばい、ハイハイ、つたい歩き。赤ちゃんが生まれて初めて身につける移動運動、実は「ねがえり」なんです。個人差はありますが、ねがえりは生まれて5~6ヵ月の間にできるようになります。赤ちゃんはそれまでお母さんやお父さんに寝かせてもらった場所から動くことができません。赤ちゃんが何かを触れられるのは手の届く範囲だけです。
でもねがえりができるようになるとどうでしょう。今まで届かなかったおもちゃにも手が届くようになります。赤ちゃんがその気になれば、手の届く範囲がお部屋の中全体になるんです。赤ちゃんの世界が一気に広がる瞬間です。
■【 ねがえり】を促す部屋のポイント
①平らで広いスペースを確保する(リビング・和室でもOK)
ベビーベッドだけでは動ける範囲が限られるため、床に寝かせて自由に動ける環境を作
りましょう。
②おもちゃは“手が届きそうで届かない”距離に置く
これだけで赤ちゃんは自然とねがえりしようとがんばります。
③床はすべりにくいマットを使用
ねがえりが成功しやすく、ケガ防止にも役立ちます。
ねがえりで興味あるものに自分から向かえるようになると、知的好奇心と運動発達の両方が伸びます。
【ずりばい〜ハイハイ期】生後6〜9ヶ月|“上方向への発達”を促す環境づくり

ねがえりをするようになってしばらくすると「ずりばい」もできるようになります。ずりばいは、赤ちゃんがうつ伏せでお腹を床につけたまま、手や足の力を使って進む動作です。前に進むだけではなくて、お腹を中心にしてクルクルと回ることもできるようになります。この頃になると、ねがえりやずりばいを使って、赤ちゃんは部屋の中をかなり自由に動き回ります。しかし、何かがまだできない…。そう、お腹やお尻を床から浮かすことがまだできないんです。ねがえりの時も、ずりばいの時も、もちろんスヤスヤ寝ているときも、赤ちゃんのお腹やお尻はずっと床についたまま。手や足で支えてお腹やお尻を上に浮かすというのは、赤ちゃんにとって、実はかなり難しい動作なんです。
お腹をお尻を床から浮かすためは、重力に負けずに、自分の体を上に持ち上げなければなりません。床の上で横方向にどんどん広がっていった運動発達が、上方向に向かうことが必要です。上方向へと運動が発達すると、床から自分で起き上がってお座りしたり、ハイハイやつたい歩き、ひとり歩きをしたりできるようになります。
では、お腹やお尻を床から持ち上げられない時期に、上方向への運動の発達を促すことはできるのでしょうか?もちろんできます。ねがえりやずりばいがある程度できるようになった頃には、座らせてあげれば結構上手におすわりしています。ねがえりやずりばい、おすわりをしている赤ちゃんをよく観察してみてください。自分の目線よりも高いものを取ろうとしていることがあるはずです。低い台や机、ソファーの上のおもちゃに向かって必死に手を伸ばして取ろうとする姿、かわいすぎます。そうです。まだお腹やお尻を床から持ち上げることはできないものの、赤ちゃんの興味はどんどん上方向に広がっているんです。
■ 【ずりばい〜ハイハイ】を促す部屋のポイント
①低めの台やローテーブルの上におもちゃを置く
赤ちゃんの興味が「上」に向き、自然と体を起こそうとします。
②大人の足で“やさしい障害物”をつくる
太ももやすねの上を乗り越えようとすることで、体を上に持ち上げるための筋肉が発達。
③お座りできるようになったら高さのあるものに手を伸ばせる配置に
「届きそうで届かない」環境が、立ち上がりの準備に。
この時期は「上方向への運動発達」が鍵。部屋の中に“少し高い場所に興味の対象を置く”工夫が効果的です。
【つたい歩き期】生後10ヶ月頃〜|ひとり歩きにつながる環境づくり

生まれてから10ヵ月ほどたつと、赤ちゃんは手を使えば上手に立っていられるようになります。そして机やソファーでつたい歩きをするようになります。つたい歩きができるようになると、いよいよひとり歩きまであと少しです。でも、つたい歩きができてから、ひとり歩きするまで2ヵ月くらいはかかります。手を使わずに歩くのは、手を使って歩くのと、全く違うと言っていいほど違うんです。
つたい歩きをするようになって最初の方は、足だけではまだうまく体重を支えられないので、体をもたれさせて、手にも結構力を入れています。力がついてくると、つたい歩きがどんどん上手になってきます。足に力がついてきて手や体の支えがあまり必要なくなってきたらチャンス到来です。色々なつたい歩きを試してみましょう。
■ 【つたい歩きを促す】を促す部屋のポイント
①つかまりやすい家具を複数配置(ソファー、ローテーブルなど)
手をつく高さが変わるとバランス感覚が鍛えられます。
②壁沿いにつたい歩きコースをつくる
壁は支える部分が少ないため、より難易度が高く効果的です。
③片手におもちゃを持たせて歩かせる
手の使い方が変わり、歩行の発達にもつながります。
④転倒対策を徹底する(角ガード、ジョイントマット)
この時期は特に安全性を最優先に。
つたい歩きは、机やソファーなど、物じゃないといけないわけではありません。机の端まできたら、お母さんが手を出してあげてください。お母さんの手へとつたい歩きしてきます。お父さんが座って手を横にいっぱいに広げて、その手をつたって歩かせてみることももちろんオッケーです。そうすると、人と歩くこと、つまり手つなぎ歩きができてきます。ここまでくれば、わが子がひとりで歩く、感動のその瞬間まであと少し。その時が来るまで、つたい歩きや手つなぎ歩きで、お子さんをいっぱい歩かせてあげてくださいね。
まとめ

赤ちゃんは生まれてからだいたい1年から1年半くらいでひとり歩きができるようになります。生まれたばかりのころは自分で全く動けなかったわけですから、すごい進歩です。ただ、結構あっという間ですし、気付いたら色々とできちゃっていたなんてことも。もちろん、赤ちゃんは赤ちゃんなりにどんどん発達していきますから、運動面に関していえば、何かをしなければいけないということはありません。
赤ちゃんを育てる上でもっとも大切なことは「安全」です。でも、安全に十分気を付けた上で、赤ちゃんの運動発達に伴いお部屋を少し工夫するだけで、今まで気づかなかったお子さんの成長を感じることができるはずです。「こんなことできるようになったんだ!!」「すごーい!!」「かわいー!!」こんな言葉が家の中にあふれます。ぜひ試してみてください。

■監修_リビングサーラ/施工管理担当者_資格:1級建築施工管理技士・2級建築士
WRITER PROFILE
豊橋創造大学/保健医療学部/理学療法学科 教授 冨田 秀仁
理学療法士として手足が不自由なお子さんに対するリハビリテーションに長年にわたり従事している。現在は大学教員として小児理学療法に興味を持つ学生の育成に力を注いでいる。