住宅ローンと年収の関係|無理なく返済する目安と返済計画のポイント

マイホームは購入して終わりではなく、その後、数十年にわたって住宅ローンを返済していく必要があります。現在の経済状況なら問題ない返済額であっても、将来何かのきっかけで年収が減ったり、ライフイベントで支出が増えたりすると、返済負担が重くなる可能性も考えられます。こうした点を踏まえ、住宅ローンを無理なく返済するには、どのようなことを意識して計画すればよいのでしょうか。
この記事では、住宅ローンと年収の関係を示す「年収倍率」や「返済負担率」について解説するとともに、無理なく返済するための住宅ローン選びの注意点や返済計画のポイントを紹介します。

目次
住宅ローンと年収の関係とは?
住宅ローンを借りる際、年収は借入の可否や借入条件を左右する重要な要素となります。銀行などの金融機関が住宅ローンの審査を行う際には、申込者の年収や世帯年収をもとにした「返済能力」で、将来にわたって無理なく返済できるかどうかを判断するからです。ここでは、ローン審査で重視される住宅ローンと年収の関係性について詳しく見ていきましょう。
住宅ローン借入額と年収の関係を示す「年収倍率」
住宅ローン借入額と年収の関係性を示す指標の一つとして「年収倍率」が挙げられます。年収倍率とは、住宅ローン借入額が年収の何倍かを表すものです。住宅金融支援機構「フラット35利用者調査」によると、2023年度の住宅種別ごとにみた平均年収倍率は以下のとおりでした。
・2023年度の年収倍率の全国平均
住宅種別 | 平均年収倍率 |
土地付き注文住宅 | 7.6倍 |
注文住宅 | 7.0倍 |
建売住宅 | 6.6倍 |
新築マンション | 7.2倍 |
中古戸建て住宅 | 5.3倍 |
中古マンション | 5.6倍 |
(出典)住宅金融支援機構「2023年度 フラット35利用者調査」
実際、適正な年収倍率は5〜7倍とされており、どの住宅種別でもおおむね範囲内に収まっているといえるでしょう。借入金額だけに目を向ければ、この金額なら無理なく返済できると考えられます。
重要なのは返済負担の大きさ
「借入金額だけに目を向ければ、年収倍率5〜7倍が目安」とお伝えしましたが、年収倍率だけで借入額を判断すると、場合によっては返済負担を重く感じるかもしれません。住宅ローンの返済計画を立てるうえで最も重要なのは、自分たちの経済状況やライフプランに合った返済負担になっているかという点です。
年収は、あくまで税金や社会保険料などを控除する前の額面上の収入を指します。実際には、人によって控除される金額が異なるうえ、家庭によって毎月の支出額やライフスタイルもさまざまです。こうした点を考慮して、年収と返済負担の関係性を示すのに用いられる指標が「返済負担率」です。
無理なく返済するために注目したい「返済負担率」とは?

返済負担率とは、年収に対してローンの年間返済額が占める割合のこと。例えば、年収500万円の方が年間125万円(月額約10.4万円)を返済しているとすると「125万円÷500万円×100=25」なので、返済負担率は「25%」です。
多くの金融機関で、住宅ローン借入時の返済負担率に上限を設けています。具体的な上限値は公表されていませんが、一般的に30〜35%以内、高くても40%を下回っていないと融資を受けるのは厳しいでしょう。ただし、これは金融機関から「最大限借りられる金額」を示すものに過ぎません。
一方で、無理なく返済するには、返済負担率を20〜25%未満に抑えるのが理想とされています。先述の「フラット35利用者調査」より、2023年度の住宅区分別にみた返済負担率の平均値も紹介しましょう。
・2023年度の返済負担率の全国平均
住宅種別 | 平均総返済負担率 |
土地付き注文住宅 | 26.4% |
注文住宅 | 23.1% |
建売住宅 | 24.2% |
新築マンション | 22.4% |
中古戸建て住宅 | 20.3% |
中古マンション | 19.9% |
(出典)住宅金融支援機構「2023年度 フラット35利用者調査」
全体でみると総返済負担率25%未満が53.9%、25〜30%未満が26.6%を占めており、多くの方が適正値といわれる範囲でローンを組んでいることがうかがえます。
返済負担率を低めに設定することで、生活費や将来の子どもの教育費、医療費など、想定外の支出にも対応しやすくなります。返済負担率が高くなりそうな場合は、購入費用の予算を見直したり頭金を用意したりして、借入額を抑えることを検討しましょう。
年収別の住宅ローン借入可能額の目安
先述の理想的な返済負担率「20〜25%未満」を基にした場合、借入可能額や毎月返済額はいくらぐらいになるのでしょうか。年収別のシミュレーション結果を紹介します。
・シミュレーションの条件
・返済負担率 :20〜25% ・返済期間 :35年 ・借入金利 :年1.5% ・金利タイプ :全期間固定金利 ・ボーナス返済 :なし |
・年収別の住宅ローン借入額の目安
年収 | 年間返済額 | 毎月返済額 | 借入可能額 |
400万円 | 80万円〜100万円 | 約6.7万円〜約8.3万円 | 2,180万円〜2,710万円 |
500万円 | 100万円〜125万円 | 約8.3万円〜約10.4万円 | 2,710万円〜3,390万円 |
600万円 | 120万円〜150万円 | 10万円〜12.5万円 | 3,260万円〜4,080万円 |
800万円 | 160万円〜200万円 | 約13.3万円〜約16.7万円 | 4,340万円〜5,450万円 |
1,000万円 | 200万円〜250万円 | 約16.7万円〜約20.8万円 | 5,450万円〜6,790万円 |
※りそな銀行「住宅ローン シミュレーション(新規)」を使って計算
なお、上記は参考値であり、実際の借入可能額は適用金利や返済期間によって異なります。金融機関ごとの基準も考慮する必要がある点にも注意しましょう。
住宅ローン金利が返済額に与える影響
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返済負担率は借入可能額を判断する重要な指標ですが、同じ借入額でも、金利が違えば返済額は大きく変わってきます。住宅ローンは、借入額が大きいうえに返済期間も長いため、少しの金利の差が返済額の大きな差となって現れるのです。ここでは、住宅ローンにおける金利タイプの種類や特徴を解説し、金利別の返済額をシミュレーションしてみます。
金利タイプの種類と特徴
住宅ローンの金利タイプには、大きく「全期間固定金利型」「変動金利型」「固定金利期間選択型」の3種類があります。それぞれの特徴を確認しましょう。
・住宅ローンの金利タイプの種類
金利タイプ | 内容 | メリット | デメリット |
全期間固定金利型 | 返済期間中ずっと金利が変わらない | ・毎月返済額が固定されているので、返済計画を立てやすい ・金利上昇局面でも返済額が変わらない | ・当初の借入金利が最も高く設定される ・返済中に金利が下落しても恩恵を受けられない |
変動金利型 | 市中金利の変動によって借入金利が変動する | ・当初の借入金利が最も低く設定される ・金利下落局面では返済額が下がる可能性がある | ・金利上昇局面では返済負担が重くなる(未払い利息のリスクもあり) ・返済額が確定しないので返済計画が立てにくい |
固定金利期間選択型 | 当初一定期間のみ固定金利で、その後は固定・変動を選べる | ・固定金利型よりは当初の借入金利が低く設定される ・一定期間市場動向を様子見してから、再度判断できる | ・固定期間終了時に金利が上昇していると返済額が増える ・返済額が確定しないので返済計画が立てにくい |
国土交通省が実施した「令和6年度民間住宅ローンの実態に関する調査」によれば、2023年度の新規住宅ローン貸出額に占める金利タイプ別の割合は、変動金利84.3%・固定金利期間選択型9.0%・全期間固定金利型(フラット35を除く)2.1%と、変動金利を選んだ方が圧倒的に多数でした。
これは、日本の金利が長年超低金利の状態にあったからです。しかし、2024年に日銀のマイナス金利政策が解除されるなど、長期的には金利が上昇する傾向にあります。変動金利型を選択する場合、今後の金利動向を慎重に考える必要があるでしょう。
(出典)国土交通省「令和6年度民間住宅ローンの実態に関する調査 結果報告書」
金利別の返済額シミュレーション
続いては、住宅ローンの金利が返済額にどれくらいの影響を与えるのか、簡単なシミュレーションで確認しましょう。シミュレーションにおける共通の前提条件は次のとおりです。
・シミュレーションの条件
・借入額 :3,000万円 ・返済期間 :35年 ・金利タイプ :全期間固定金利 ・ボーナス返済 :なし |
上記の条件のもと、金利1.0%・2.0%・3.0%の3パターンにおける毎月返済額と総返済額を比較してみます。
・金利差による住宅ローン返済額の比較
借入金利 | 毎月返済額 | 総返済額 |
1.0% | 8万4,685円 | 3,556万7,700円 |
2.0% | 9万9,378円 | 4,173万8,760円 |
3.0% | 11万5,455円 | 4,849万1,100円 |
※りそな銀行「住宅ローン シミュレーション(新規)」を使って計算
このように金利が1%上がるだけでも、毎月の返済負担は重くなります。どの金利タイプを選ぶかによって金利は大きく異なってくるため、自分の返済能力を考慮したうえで、慎重に金利タイプを選ぶことが大切です。
住宅ローンを選ぶ際の注意点
マイホームの資金計画に大きな影響を与える住宅ローン選びですが、商品を選ぶ際には、次に挙げる注意点を意識するようにしましょう。
ライフプランに合った金利タイプを選ぶ

金利タイプには、大きく分けて3種類あることを紹介しました。3種類はそれぞれに異なるメリット・デメリットがあるため、特徴を比較したうえで、ライフプランに合ったものを選ぶことが重要です。
例えば、高校生や大学生の子どもがいて、まさに現在教育費関係の支出が大きい家庭であれば、5年も経てば支出が落ち着くと考えられます。この場合、借入当初の支出を抑えられる変動金利型を選ぶのが得策といえるでしょう。
一方、まだ子どもが小さく、今後5年・10年の単位で支出の増える見込みがある場合、将来返済負担が重くなるのは避けたいものです。そうなると、返済額の変わらない全期間固定金利型や固定金利期間選択型のほうが適しているかもしれません。
このように、ライフプランにおいて最も支出が増える時期でも無理なく返済を続けられるよう、金利タイプを選択するのがおすすめです。
頭金を入れて借入額を抑える
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購入時に頭金を入れれば、住宅ローンの借入額を抑えることができます。借入額が小さくなれば、当然将来の返済負担も小さくできるでしょう。例えば、3,000万円の物件を「返済期間35年・全期間固定金利型・借入金利2.0%・ボーナス払いなし」の住宅ローンで購入するケースにおいて、頭金ゼロと頭金2割で返済額がどう変わるか試算してみます。
・頭金の差による返済額の比較
頭金 | 借入額 | 毎月返済額 | 総返済額 |
ゼロ | 3,000万円 | 9万9,378円 | 4,173万8,760円 |
2割 | 2,400万円 | 7万9,503円 | 3,339万1,260円 |
※りそな銀行「住宅ローン シミュレーション(新規)」を使って計算
頭金を購入価格の2割分用意するだけで、毎月返済額が2万円近く減っていることが分かります。毎月の返済に余裕があれば、返済期間を短くして早期に完済してもよいでしょう。
このように、頭金を一定程度用意することにより、住宅ローンの返済負担を大きく軽減できる可能性があります。
借入時の諸費用も考慮する
住宅ローンを借り入れる際には、金融機関へ支払う手数料や保証会社へ支払う保証料など、諸費用がかかることも意識しておく必要があります。具体的には次のような費用が挙げられます。
・住宅ローンの諸費用
費用項目 | 内容 |
ローン手数料 | 金融機関が行う事務手続きに支払う手数料。借入金額の一定割合を支払う「定率型」と、借入金額にかかわらず一定額を支払う「定額型」がある。 |
ローン保証料 | 返済できなくなったとき、代わりにローン返済額を支払う保証会社に対して支払う費用。支払方法は、借入時の一括支払いと金利上乗せがある。 |
団体信用生命保険料 | 返済中に契約者が死亡したり高度障害になったりした場合、それ以降の返済が免除される団体信用生命保険(団信)の保険料。多くの住宅ローンで加入が義務付けられており、保険料は借入金利に含まれるケースが大半。 |
登記費用 | 住宅ローンの担保として金融機関が設定する「抵当権設定登記」で支払う登録免許税、手続きを依頼する司法書士報酬。 |
印紙税 | 金融機関と締結する金銭消費貸借契約(ローン契約)に貼付する印紙代。 |
諸費用の目安は、新築物件の場合で借入金額の3〜5%程度、中古物件で借入金額の約6〜8%程度とされます。3,000万円の新築物件なら約90万円〜150万円の諸費用が発生することになり、負担は決して小さくありません。住宅ローンの資金計画を立てるときは、諸費用もしっかり盛り込んでおきましょう。
繰り上げ返済の可能性を検討する

返済期間中、自己資金に余裕が生まれた場合、繰り上げ返済を検討してもよいでしょう。繰り上げ返済とは、あらかじめ決められた毎月返済額とは別に、一定のまとまった金額を返済することをいいます。
毎月返済額が利息支払いを含むのに対し、繰り上げ返済分はすべて元本の返済に充てられるのが特徴です。繰り上げ返済には、次の2つのタイプがあります。
・繰り上げ返済の2つのタイプ
種類 | 内容 |
期間短縮型 | 毎月返済額は変更せず、残りの返済期間を短縮する。 |
返済額軽減型 | 残りの返済期間は変更せず、毎月返済額を小さくする。 |
いずれのタイプも返済負担を軽減できることに変わりはないものの、総返済額でみると「期間短縮型」のほうが軽減効果は大きいといえます。一方、返済額軽減型は繰り上げ返済を行ってすぐに効果を実感できるため、家計を少しでも楽にしたい場合には適しているかもしれません。
経済状況とライフプランを考慮した返済計画のポイント
マイホーム購入は、人生の中でも特に大きな決断です。それゆえに住宅ローンを組む際には以下のポイントを十分に検討して、無理のない返済計画を立てるようにしましょう。
頭金は無理のない範囲で準備する
先述のとおり、購入費用の一部を頭金で賄えば、借入額を減らして毎月返済額を抑えることが可能です。頭金は、一般的に「購入費用の2〜3割程度」が理想とされています。
しかし、自己資金の大半を頭金に充ててしまうと、想定外の支出が発生したときに資金がショートしてしまう恐れがあります。何かあったときでも対応できるよう、生活費の3〜6ヶ月分(子どもがいる家庭では6ヶ月〜1年分が理想)を「生活防衛資金」として手元に残しておくのが安全です。
頭金は、生活防衛資金を除いた余剰資金の中から、可能な範囲で捻出するのが得策でしょう。
ライフイベントや将来の支出を見据えて計画を立てる

住宅ローンは数十年にわたって返済し続けるものであり、現在の経済状況だけで判断するのはリスクを伴います。
返済期間中に病気やけがで一時的に働けなくなったり、退職や転職で年収が減ったり、あるいは子どもの教育費や家族の医療費、車の購入などで支出が大きく増えたりして、今後家計の収支バランスが大きく変化するかもしれません。住宅ローンを組む際は、こうした将来的な支出やリスクも考慮しておく必要があります。
また、一時的な収入増加やボーナスに頼った返済計画は、どこかで破綻する可能性も。あくまで、基本的な月収で無理なく返済できる計画を立てましょう。
まとめ:無理のない返済計画を立てるために

住宅ローンを組む際には、金利や借入時にかかる諸費用を含め、年収に応じた返済負担率や借入可能額をあらかじめ把握しておくことが大切です。そのうえで、金融機関から借りられる上限いっぱいで借り入れるのではなく、将来にわたって無理のないあなたのライフプランに合わせた最適な返済計画を立てましょう。
マイホーム購入は、長い人生の中でも特に大きな決断です。慎重に計画を立てることで、その後の暮らしを安心でより充実したものにできます。
もし、具体的な返済シミュレーションや金融機関のプラン比較を行いたい場合には、家づくりの専門家やファイナンシャルプランナーに相談するのも有効です。プロのアドバイスも参考にしながら、無理なく返済できて、満足度の高い住宅ローンを選びましょう。

■監修_サーラ不動産/担当者_資格:宅地建物取引士

WRITER PROFILE

藤田一太郎
宅地建物取引士・再開発プランナー
大手不動産デベロッパーで都心商業施設の運営管理・企画・リーシングなどを経験。再開発コンサルでリーシング・契約業務、都心や地方の再開発企画業務に携わる。現在は、不動産ライターとして活動する一方、日本茶インストラクターとして茶農家メンバーとしても活動中。