脱原発の今、深夜電力やオール電化はどうなっている?
東日本大震災を機に各地の原子力発電所の稼働が停止し、発電方法が太陽光発電などの再生可能エネルギーにシフトした中で、世界情勢の影響からエネルギー価格が高騰しています。
自然環境に優しい再生可能エネルギーにも弱点はあり、近年は太陽光発電の出力制御や「需給ひっ迫警報」が発令される事態となり、たびたび電力不足の危機に陥っています。
今回は、変わり続ける電力を取り巻く環境や、国の方針や期待される新たな発電システムなど、今後の見通しについても紹介します。
目次
深夜電力の仕組み
原発稼働を前提に深夜電力が存在している
深夜の時間帯に割安な深夜電力料金は、原子力発電所の稼働が前提の料金体系となっています。しかし、東日本大震災での福島第一原発事故を機に、日本各地の原発が次々と停止。原子力規制委員会の審査に合格している原発は国内に17基ありますが、実際に再稼働しているのは10基にとどまっています。それにより、発電燃料を海外から調達する石油・石炭・天然ガスに依存する火力発電にシフトしました。
ところが、ロシアによるウクライナ侵攻以降、二酸化炭素の排出量が低い天然ガス発電所輸入金額の上昇によって燃料調整額が上昇し、国内の電気料金が値上がっています。
調達コストが高くなると燃料調整額が値上げされ、電気料金やガソリン代が家計を圧迫しているのが現状です。
火力発電シフトでの深夜電力割引の矛盾
発電所は発電量と使用量が一致しないとブラックアウト(広域停電)してしまうため、もともとは発電調整できない施設でした。
そこでできたのが、公共建造物のライトアップや、24時間営業のコンビニなどブラックアウトを避けるための割安な深夜電力でした。しかし、火力発電は燃料を焚いて発電する仕組みのため、いまだに深夜電力割引があることすら矛盾しています。
太陽光発電の出力停止
普及の反作用で行われる出力制御
太陽光発電の普及が進められていますが、一方で再生可能エネルギーの普及により、需要と供給のバランスが保てず、最近は太陽光発電の発電を止める「出力制御」が行われています。
2022年4月、四国電力、東北電力、中国電力の大手電力管内で初めて、ブラックアウトを防ぐために太陽光などの再生可能エネルギーの発電を止める出力制御の措置が取られました。
四国電力が太陽光を中心に最大15万kWの発電を停止し、次いで東北電力が最大11万kW、中国電力が最大47万kWを止めました。四国、東北はその後の土日にも相次いで行いまいた。この3年前から行われていた九州電力管内から、出力制御のエリアがさらに広がる形となりました。
再生可能エネルギー普及で電気が余る
この前の月には東京電力と東北電力管内で初めて「需給ひっ迫警報」が発令され、節電が呼びかけられましたが、この時は地震で発電所が停止したのに加えて、寒波で電力需要が増えて電気が不足した事態が原因でした。
しかし大手3会社による出力制御はその逆で、電気が余ってバランスが崩れ、ブラックアウトの危険性が発生したための措置となりました。
東日本大震災の後、再生可能エネルギーの電気を買い取る制度が始まり、設置が比較的簡単な太陽光発電が急拡大したことも、冷暖房の需要が減る春に電気が余る原因となりました。
発電側課金とは?
送配電設備費を発電事業者に負担義務
経済産業省は、再生可能エネルギーの制度設計について、新たに「発電側課金」を設け、2024年から実施する方針で準備が進められています。
発電側課金を指す送配電コスト「託送料金」は、現状では小売電気事業者がすべてを負担しています。しかし、実際には託送料金は全体の数割しか小売電気事業者から回収できておらず、赤字状態が続いています。
そこで、再生可能エネルギー設備の急速な普及・拡充により、太陽光発電や風力発電を担う事業者なども送配電設備の設置で利益を得ているのではないかという推測から、これらの事業者にも送配電設備の費用負担に関する義務を課すべきという考えで発電側課金が追加されました。
負担額は1kWあたり900円
発電側課金案の費用負担額については、2022年4月時点では1kWあたり1800円の50%程度(=900円)という案が出ています。
例えば出力100kWの太陽光発電を所有している場合、年間で9万円程度の費用を支払うことになります。
ただ、例外として、すでにFIT認定を受けている発電設備については費用負担の除外対象となる見通しです。
未定な部分もまだまだ多いので、政府や関係機関による発表が待たれます。
夕方から夜間の電気が不足
太陽光発電では夜間に電気を回せない
多くの原発が稼働を停止し、再生可能エネルギーが普及している昨今、深夜に電気が余っているのではなく、夕方から深夜、朝方にかけて電気が不足している状況が起きています。
例えば東京電力の管内では連日、昼ごろに1300万kW程度の出力が出ており、これは大型の火力発電所13基分にも相当する大きな出力にあたります。
しかし、太陽光発電の出力は昼がピークで、多くの太陽光パネルにとっては夕方には出力が5分の1程度にまで落ちてしまいます。
発電できた電力を蓄えておくための蓄電池の性能も十分ではなく、昼の大きな出力を、需給が厳しい夕方以降の時間帯に持ってくることは難しいです。
水力発電にも弱点がある
この状況を、発電時間帯を調整できる水力発電によってピークをしのぎました。
揚水発電はダムの水を高い場所にくみ上げ、低い場所に流す際の水の流れを使ってタービンを回して、発電する方法です。夜間に水をくみ上げ、一番足りない時間帯に放出して発電します。
これを太陽光発電の出力が落ちる夕方に集中させることで、一番厳しい時間帯をしのぎました。
ただ、この水力発電もカーボンニュートラルや水不足などの自然条件によっては危険な状況に陥るケースもあるため、節電や蓄電で電力不足をできる限り回避することが求められています。
オール電化の今後
昼間に余る電気を使用する可能性
原発の再稼働にはいくつかの大きな課題があり、現実的ではありません。
そこで注目されているのが、「VPP」と呼ばれる仮想発電所におけるエコキュートの活用で、昼間に安い電気を利用できる可能性を秘めています。
エコキュートや電気温水器は「深夜の電気代が安い」ことを前提に、深夜に大量のお湯を沸かしていましたが、太陽光発電の普及などにより、電気の市場価格はむしろ昼間に最低価格をつけることも珍しくなくなってきています。
エコキュートをVPPと連携して運転することで、VPPのシステムからエコキュートを遠隔制御し、深夜に限らず電気が余っている時間帯にお湯をまとめて沸かすことができるようになります。
エコキュートの所有者は、協力に応じて電気代の割引などのメリットを得ることも可能になります。
おわりに…
最後に紹介したエコキュートとVPPを連携させる取り組みや、蓄電技術の普及が進むと、需要の変動が小さくなり、深夜・昼間の電気料金の価格差が縮小していく可能性もあります。
エネルギーを取り巻く環境は依然として厳しい状況が続くと予想されます。
電力を適切に利用し、節電の意識を高めていくことが大切です。
■監修_サーラエナジー/エネルギー事業、暮らし事業担当者
WRITER PROFILE
由本 裕貴
1983年3月20日、愛知県豊川市生まれ。
御津高校、愛知大学を経て、2005年に日刊スポーツ新聞社入社。プロ野球やサッカー日本代表を担当し、2014年に東愛知新聞社へ転職。2021年からフリーに転向し、翌年から東日新聞ライターとして東三河のニュースや話題を追っている他、スポーツマガジンやオカルト雑誌などでも執筆。豊川商工会議所発行「メセナ」の校正も請け負う。著書に「実は殺ってないんです 豊川市幼児殺害事件」「東三河と戦争 語り継ぐ歴史の痕跡」「訪れたい 東三河の駅」がある。
家族は妻と長男。趣味はスポーツ観戦、都市伝説の探求。