健康寿命を延ばそう! 転倒予防のための筋力トレーニング

健康寿命を延ばそう! 転倒予防のための筋力トレーニング

前回のコラムで高齢者の健康寿命の妨げとなる高齢者特有のフレイルという状態と、“サルコペニア”という筋力低下についてお話ししました。また筋力低下を見つけるための方法も紹介しました。今回はその続編として、筋力低下を防ぐ方法を紹介したいと思います。

筋力と健康寿命

筋力低下が健康寿命の短縮につながる理由として、まず挙げられるのが活動性の低下です。筋力といっても握力のような最大筋力、速く走るような瞬発力、長い距離を歩くような持久力などいろいろな側面があります。

最大筋力の低下は、重たいものを持つことができない、ビンのふたを開けられないということに現れます。瞬発力の低下は、何かにつまずいて転びそうになった時に、素早く対応できなくて転倒につながります。

持久力の低下はある程度の距離を連続して歩くことができなくなり、外出を控えるようになります。このようにして筋力低下は活動性を低下させ健康寿命の短縮につながります。

今回は転倒による活動性の低下を防ぐためのトレーニングを紹介します。

転倒には様々な要因が絡んでいますが、大きな原因に筋力の低下があります。つまずいてバランスを崩した時に立て直すことができずに転倒することはありますが、これは素早くバランスの乱れに反応して体重を持ち直して姿勢を立て直すという能力が必要になります。

躓いてしまいそうな人

素早い動きで立て直さないと転倒してしまう。

高齢者の筋力低下について

高齢者の歩く姿

高齢者の筋力低下に関しては、若い時に比べて特徴的なことがあります。

人の筋肉は動く速さから、速く動くための線維(速筋線維)とゆっくり動くための線維(遅筋線維)の2種類の筋線維が混ざって存在しています。速筋は主に走ったり物を早く投げたりするような役割を担い、遅筋線維は立っていたり座っているなどの姿勢を維持する役割を担っています。このような仕組みでヒトの筋肉はいろいろなスピードの動きに対応します。

高齢者と若者の動きの差はどのようなことがあるでしょうか?

普通に歩くスピードですがこれは実はあまり高齢者と若者では大きな差はありません。これは街中で歩く速度を見ていると感じると思います。

ではどのような時に差が出るのか?

速く歩くことが必要になった時にその差が出てきます。最大速度で歩くときは、早く動く筋線維が重要になってきます。高齢者ではこの早く動くための筋力の方が、姿勢を保つなど遅い動きの筋線維より低下する割合が多いといわれています。

また持久力に関しては年齢の影響は受けにくいといわれています。これは、立つ姿勢や座る姿勢をキープするときには、年齢の差があまり感じられないことからもわかると思います。

走る男性

早い運動に適した筋線維と姿勢を保つためのゆっくりした運動に適した筋線維が混在している。

筋力トレーニングの原則

筋力トレーニングには効果を上げるために必要な原則があります。

一つ目は、筋肉に負荷をかける。

これは無理な負荷をかけるということではありません。最大の力の60%程度の負荷で十分に効果が期待できます。立ったり歩いたりするために重要な脚の太ももの筋肉(大腿四頭筋)を例にとってみます。先回も紹介しましたが、筋力の衰えを測定する椅子から片足で立ちあがるテストは片足で体重を持ち上げます。体重60Kgの人なら60Kgの力が出ています。椅子から片足で立ち上がれない人は最大筋力が60Kg以下になります。その人が両足で立った場合、片足に30kgの体重がかかるのでトレーニングに適した負荷になります。

二つ目に重要な点は“強化したい動作のトレーニングをする”ということです。

二つ目は、“強化したい動作のトレーニングをする”ということ。

これは立位の安定性を向上するために脚の筋力を鍛える必要があるときに、寝た姿勢や、座った姿勢でトレーニングを行っても効果が薄いということです。

筋肉単体の筋力は強くなっても、動作で上手く発揮できないということが起きます。これはスポーツに例をとってみますと、基礎的な筋トレをしたとしても実際に走ったり投げたりしなければ技術は上達しないということからもわかると思います。

自宅で簡単にできるトレーニング方法

今回は自宅で簡単にできる転倒を予防するための筋力トレーニングを紹介します。

いずれも運動も、筋肉のトレーニングには筋肉の疲労感を生じますが、運動中に膝や股関節、足首などの関節が痛みを感じる場合は関節の変形などが進んでいる場合がありますのでトレーニングを控えて整形外科などを受診してみてください。

片足立ち持続訓練

片足立ちの目安として、1分間保持できるかという基準がありますが、1分間というとかなり難しく後期高齢者になるとクリアできる割合がガクンと低下します。歩行は片足立ちの連続なので、片足立ちが安定すれば歩行も安定します。片足立ちは椅子やテーブルなどに軽く触れて、なるべく長く片足立ちをキープします。(片足立ちが1分できなかった場合はまず1分を目安にしてください)

片足立ち持続訓練

つま先立ち訓練

片足立と同様に歩行の安定とスピードに重要な役割を果たす筋が下腿三頭筋(ふくらはぎの筋)です。この筋肉はつま先立ちをすることで強化ができます。これも椅子やテーブルを軽く持って行います、回数の目安ですが最初は20回程度でふくらはぎに疲労感を感じると思いますが、疲労感を感じるまで行ってください。

つま先立ち訓練

前後、左右方向の体重移動

歩行を安定させるためには実際に歩く動作の訓練が必要になります。椅子の背もたれなどを持ち足を前後に開き後ろになった足を前に持って行き体重移動をします。これを左右両方行います。次いで左右に体重移動を行います。またスピードは「できるだけゆっくり」と「なるべく速く」の2種類行います。

前後、体重移動
前後、体重移動
前後、体重移動
左右、体重移動
左右、体重移動
左右、体重移動

椅子からの起立訓練

前回紹介した下肢筋力低下の目安となる、片足による椅子からの立ち上がりができない、もしくはふらついてかろうじてできた人は、テーブルなどに手をついて片足で立つことから始めてください。手をついても片足ではできない場合は、両足で行いますがその時になるべく片方の足に重心をかけるようにします。

椅子からの起立
椅子からの起立
椅子からの起立

今回は、歩行時の安定性の向上に絞ったトレーニングを紹介しました。トレーニング中に筋肉の疲労感は感じられますが。関節の痛みや息切れ等が出た場合は中止してください。

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WRITER PROFILE

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八木幸一

豊橋創造大学 保健医療学部 理学療法学科 教授
理学療法士として心疾患や呼吸器疾患の急性期や在宅リハビリテーションなどに従事した後、豊橋創造大学にて理学療法士の養成および大学の地域貢献事業推進、在宅リハビリテーションや災害時の要介護者の避難などの研究・支援などを行っている。

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